腎代替療法はその名の通り腎臓の代わりを担う治療で、臨床現場では全部まとめて「透析」といわれることが多いです。ここではその原理から分類、言葉の定義などを中心に解説していきます。
0:腎代替療法の適応
1:腎代替療法の原理
これらの余分な物質を血液中から透析液中へ除去するための原理として2つ「拡散(diffusion)」と「濾過(filtration)」が挙げられます。イメージとしては前者は受動的に勝手に散らばってくれる方法で、後者は能動的に圧力をかけて強引に移動させる方法です。
■拡散 diffusion
拡散は「分子運動」によって自然と広がることで、透析液中へ移動する現象です。この分子運動は分子量が小さいほど大きくなります(子供ほどやんちゃにあちこち動き回るのに対して、大人はあまり動かないイメージ)。このため、分子量の小さい電解質、尿素などを除去することが出来ます。
■濾過 filtration
濾過は「圧力」をかけることで、透析液中へ透析膜の穴よりも小さい物質と水を移動させる現象です(強制的に圧力をかけて大人も子供も移動させるイメージ)。このため、拡散では除去することが出来なかった分子量が中程度の物質も除去することが出来ます。
腎代替療法は基本この「拡散」と「濾過」の2つの原理の組み合わせることで、狙った物質を除去する流れになります(以下にまとめます)。
いろいろな物質の分子量を覚えることは大変なので、以下にまとめを載せます。
2:透析回路とモードの解説
透析回路はややこしいですが、下図が基礎が基本となります。シンプルにまとめると、脱血→ダイアライザー→返血という血液の流れがあり、ダイアライザー部分で拡散もしくは濾過の原理によって物質を除去するという流れになります。
ここからはそれぞれのモードと対応する透析回路を提示していきます。
■ECUM (extracorporeal ultrafiltration method) 原理:濾過
濾過の原理で「除水」(水を取り除く)のみを行う方法です。「いーかむ」と皆さんが呼んでいるものです(私が初期研修の時初めて聞いた時は全く何のことかわかりませんでした・・・)。これは下で述べるHDやHFなどと一緒に行うことが出来ます。
■HD: hemodialysis 血液透析 原理:拡散
原理は「拡散」で、血液中の小分子量の物質をダイアライザー内で半透膜を介して透析液へ除去する方法です。
■HF: hemofiltration 血液濾過
原理は「濾過」で、ヘモフィルターに陰圧をかけて水分子を含んだ小~中分子量の物質を除去するため、不足分の液体を補充(これを「置換液」といいます)する必要があります。ヘモフィルターの手前で補充する方法(前希釈法)とダイアライザーの後で補充する方法(後希釈法)の2種類があります。下図では後希釈法の模式図を載せています。拡散の原理は使用していないため、小分子量の物質の除去は血液透析(HD)に劣ります。
■HDF: hemodiafiltration 血液濾過透析
上記のHD(血液透析)とHF(血液濾過)を組み合わせたモードになります。上記の通りHF単独では小分子量の物質除去が苦手なので、HDを組み合わせることで小分子量の物質除去も効率良く行う方法です。HFでは置換液を別に用意していましたが、HDFでは”on-line HDF”といい、透析液をそのまま置換液として利用する方法が一般的です。HFと同様に前希釈法と後希釈法があります。ここでは後希釈法の模式図を載せます。
以下に今までのモードと回路・原理の対応関係をまとめます。
■IRRT or CRRT 間欠 or 持続
これだけではなく、腎代替療法においてもう1つ決めないといけない重要な点があり、それは腎代替療法を間欠的(intermittent)に行うか(一般的には1回4時間、週3回)?、もしくは持続的(continuous)に行うか(一般的には24時間持続)?を選択することです。いわゆる一般的な維持透析は前者に当たり、集中治療などで循環動態が不安定な患者では後者を選択する場合が多いです。その中間に位置する方法としてSLED(slow low efficiency dialysis)と表現します。
用語の確認
・間欠的腎代替療法:IRRT (intermittent renal replacement therapy)
・持続的腎代替療法:CRRT (continuous renal replacement therapy)
・SLED(slow low efficiency dialysis)
3:流量の設定
まず言葉の確認をします。特にQFと濾過流量は違うという点に注意が必要です。いままでの図でも対応する部分には正しい流量の記載をしています。
QB:血液流量 quantity of blood flow rate(ポンプと対応)
QD:透析液流量 quantity of dialysate flow rate (ポンプと対応)
QF:濾過流量 quantity of filtration flow rate フィルターから濾過する流量のことを表します。(以下の濾過ポンプの流量ではないことに注意が必要です・非常にややこしいため注意!!)
QS:置換液流量 quantitiy of substitution flow rate(ポンプと対応)
除水量: QF -QS で表現します。
QE:濾液流量 濾過ポンプの流量を表します。QE=QF+QDの式が成り立ちます。(非常にまぎらわしいため何度も書きますが、濾過ポンプの流量≠QFであることに注意です!!)
このうち私たちが設定するものは(言い換えるとポンプと対応しているものは)以下の項目になります。
・QB:血液流量(血液ポンプ)
・QD:透析流量(透析ポンプ)
・QS:置換液流量(補充液流量) 置換液ポンプ(補充液ポンプ)
・QE:濾液流量(濾過ポンプ)
となります。
各項目の流量も上記の間欠か持続かで変わってきます。以下に一般的な流量を提示します。
4:透析膜
透析膜は血液と透析液が触れ合う部分で、腎臓における糸球体の役割を担います。透析膜に求められる条件としては
・小~中分子量の物質や水を効率良く通過させることが出来る
・アルブミンなどの生体に重要なタンパク質が漏出しない
・生体適合性に優れている(人体にとって異物なので免疫反応などが出来るだけ起こらない方が望ましい)
ことが挙げられます。具体的に決めることとしては、「膜材質」・「膜面積」の2点が挙げられます。
1:膜材質
■セルロース系膜(天然高分子系)
・CTA:セルロースアセテート 使用頻度大・濾過には使用しない
■合成高分子系膜
・PS:ポリスルホン 日本で最も使用されている
・PES:ポリテーテルスルホン 生体適合性に優れる
・PAN:ポリアクリロニトリル ACE阻害薬内服患者禁忌
かなり細かい違いがあり、膜の種類が沢山ありますがこれ以上は専門すぎる内容かもしれません。
2:膜面積
IRRTの場合:膜面積(m2) = DW (kg) x 0.025 (m2/kg)
上式を参考に膜面積を決定します。(1.6~2.0m2くらいが多いです)
CRRTの場合:0.3~1.3m2程度で決定します。
*参考までに透析液の代表的な組成を下に提示します。
5:抗凝固
回路内の凝固を防ぐために透析回路を回す場合は必ず抗凝固薬の持続投与が必要となります。抗凝固としては以下を主に使用します。
以上腎代替療法の原理を中心にまとめました。細かいドライウェイトの設定などに関しては別途記載させていただく予定です。