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QT延長症候群 long QT syndrome

1:病態

QT延長の主病態は「Kチャネル(IKr)阻害による再分極障害」です。心筋細胞はNa+とCa2+が細胞内に流入することでそれぞれ脱分極と収縮が起こり、K+が細胞外へ流出することで脱分極が起こります。このKチャネルを規定するKCNH2遺伝子を例えば薬剤が阻害することで再分極障害をきたし、QTが延長します。

QT間隔が延長することでの弊害は、期外収縮が再分極中に起こることで、TdP(torsarde de pointes)という致死的不整脈が起こることです。

ST上昇やwide QRSなどと比べるとQT間隔延長は地味な心電図所見かもしれませんが非常に重要です。QT間隔の難しい点は何msec以上だとQT延長と明確に定義がされていない点です(文献によっても違うし、そもそも正確に測定できていないかもしれない・・・)。文献によって様々ですが、440msec以上はQT延長ととらえてよいのではないかと思います。これはST上昇などでもそうですが、「必ず前の心電図と比較してQT間隔が延長していないか?」を確認することが重要です。

QT間隔の測定は
・簡易的な判定方法:RR間隔の半分を超えているかどうか?
・接線法:T波の接線と基線の交点部位から測定する(下図参照)
QTc=QT/√RR(Bazett補正式):心拍数による補正を行う方法
が挙げられます。

QT延長:QTc > 440msec

2:原因

後天的な原因として最も多いのは薬剤電解質異常(低K血症・低Mg血症)です。QT延長をきたす薬剤を複数内服してしまう場合や、その薬剤の代謝を阻害する薬剤を内服しているとリスクが上昇します。普段QT間隔をあまり気にしないことが多いかもしれませんが注意です。

薬剤では最も多いのは向精神薬で、心筋梗塞で入院中高齢者のせん妄になんとなく向精神薬を処方してしまうとQT延長をきたして大変なことに・・・なんてことがあるかもしれません。抗菌薬ではマクロライド系、抗真菌薬ではアゾール系が注意が必要です。マクロライド系抗菌薬は外来で使用しやすいために日本では適応が不適切な状態で乱用されている場合もあり注意が必要です(マクロライドに関してはこちらを参照)。

心疾患はいずれもQT延長のリスクがあります。心筋虚血、たこつぼ心筋症などの心疾患に加えて、上記の薬剤や電解質異常が合併するとQT延長のリスクが増大するため注意が必要です。

特に向精神薬でのQT延長が有名で、それぞれの薬剤のリスク比較を以下に載せます。精神科専門医でなくても使用頻度が特に多い薬剤を赤字で示しました。

以上QT延長の原因を中心にまとめました。QT延長は普段あまり気に欠けない項目かもしれないですが、致死的不整脈につながる点と普段何気なく処方している薬剤が影響しうる点から注意が必要です。