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高プロラクチン血症 Hyperprolactinemia

1:プロラクチンの生理

プロラクチン(PRL: prolactin)は下垂体前葉ホルモンの1つであり、成長ホルモン(GH: growth hormone)と同様に前駆体細胞から発生します。

プロラクチンの特徴は(他の下垂ホルモンと違う点)
・ 下垂体ホルモンの中で唯一視床下部から抑制的に制御される
血中プロラクチン濃度によるfeedbackを受けない
・ 独立した標的内分泌器官が存在しない
といった点が挙げられます。特に視床下部から抑制制御を受ける点が重要で、これをPIF(prolactin-inhibiting factor)と表現し、ドパミンが代表的です。

プロラクチン過剰による症状として性腺機能低下・乳汁漏出症が挙げられ機序をまとめます(全体像を下図に提示します)。
性腺機能低下:プロラクチンが視床下部のGnRHを抑制することで起こります。
乳汁漏出症:乳腺での乳汁分泌が促進されることで起こります。

基本的にはホルモン過剰のみが臨床的に問題となります(PIFにより抑制されている状態が通常のため)。

2:高プロラクチン血症の原因

以下に代表的な高プロラクチン血症の原因をまとめました(hospitalistとUp to dateから参照しました)。

3:症状

以下の「性腺機能低下症」と「乳汁漏出症」が代表的な症状です。

・性腺機能低下症

女性(閉経前)の場合:月経不順→無月経
男性の場合:性欲低下→ED
*女性の月経不順、無月経、男性の性欲低下、EDでは必ずプロラクチン値を測定する必要があります。
*閉経後女性では症状がなく、プロラクチノーマの場合に下垂体腺腫による圧迫症状から発症する場合があります。
*症状の程度と血中PRL値はある程度相関する。

・乳汁漏出症

女性50-80%・男性10%以下 *症状の程度と血中PRL値は相関しない

4:プロラクチノーマ Prolactinoma

高プロラクチン血症の原因として代表的なプロラクチノーマに関してまとめます。

・疫学

男女比= 1 : 3.6 *女性に多い
発症年齢 女性:20~30歳代が90% 男性:20~60歳代ほぼ均一
*女性はmicroadenomaが多く、男性はmacroadenomaが多いとされる(男性の場合は診断に時間がかかるためかもしれない)。
下垂体腫瘍全体の約30%、機能性腺腫(下垂体)の約50%を占める

・症状

大きく「下垂体腺腫による圧迫症状」「ホルモン過剰による症状」の2つに分けられます。

・「 圧迫症状」:頭痛、視交叉圧迫による両耳側半盲など
・「ホルモン過剰による症状」:上記の高プロラクチン血症による性腺機能低下、乳汁漏出症
(プロラクチノーマは続発性無月経の原因の約20%を、乳汁漏出症を伴う無月経の原因の50%以上を占めるとされます)

・検査

血中PRL値腫瘍体積とPRL値は相関関係にあります(腫瘍径10mm大ではPRL値:200-250ng/ml程度)。200ng/mL以上であれば診断確実とされます。基本的にはどのタイミングでの採血でも問題ないですが、2~3回PRL基礎値を別日に測定することが重要です。

造影MRI検査:下垂体腺腫の検出のために行います。

診断の注意点
・高プロラクチン血症=プロラクチノーマではなく、高プロラクチン血症を呈する鑑別診断が多い。
負荷試験が存在しない。
→カベルゴリン(ドパミン受容体作動薬)内服治療が1st choiceのため、病理学的診断が出来ない。このため、確定診断にはカベルゴリン内服治療で腫瘍が縮小するかどうかの確認が必要。
上記の点がプロラクチノーマの診断において注意が必要です。

以下に診断のフローチャートをまとめます。

治療

ドパミン受容体作動薬(カベルゴリン)が1st choiceになります(手術は治療抵抗例などに限られる)。機序は上記の通り、ドパミンがPIFとして作用するためプロラクチン産生を抑制するためです。

Hospitalist コラム「プロラクチン(PRL)」が非常によくまとまっており、多くの内容を参照させていただきました。