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酸素療法 oxygen therapy

0:酸素療法を始める前に

酸素療法を始める前に以下の4点を確認してから開始するようにします。低酸素血症の理解が前提として必要なので、こちらを参照ください。

1:酸素化の問題でよいか?(換気の問題ではないか?)
2:FIO2/投与量の設定
3:Low flow system(低流量システム) or High flow system(高流量システム)
4:目標SaO2をいくつに設定するか?

以下それぞれに関してまとめます。

1:酸素化の問題でよいか?(換気の問題ではないか?)

そもそも患者さんの呼吸の問題が「酸素化の問題」「換気の問題」かを呼吸回数、呼吸様式、血液ガス検査の結果から判断する必要があります(呼吸生理はこちらを参照)。

換気の問題の場合は酸素療法は効果がなく、NPPVや人工呼吸管理が必要となります。

2:FIO2/投与量の設定

FIO2の設定はデバイスごとに、鼻カニュラ:~40%、酸素マスク:~60%、リザーバー付きマスク:60%~、ベンチュリーマスク:24~50%、HFNC:21~100%となっており、設定したいFIO2に合わせてデバイスを選択する必要があります。これには下記のlow flow system or high flow sysmtemも考慮する必要があります。

3:Low flow system(低流量システム) or High flow system(高流量システム)

酸素療法の分類として、low flow system(低流量システム)とhigh flow system(高流量システム)の2つに分類する方法があります(学生のときにはおそらく勉強しないと思いますが、実臨床ではときどき聞く言葉かと思います)。

酸素化にとって重要なのは吸入デバイス内のFIO2ではなく、肺胞レベルでのFIO2です。この肺胞レベルのFIO2を一義的に決定することが出来るかどうかがlow flow systemか?high flow systemかを分ける基準になります(これは肺胞レベルのFIO2が換気努力に依存するか?しないか?とも言い換えることが出来ます)。以下の様に分類されます。

low flow system:鼻カニュラ、酸素マスク(リザーバー付きを含む)
high flow system:ベンチュリーマスク、HFNC(high flow nasal cannula)

4:目標SaO2をいくつに設定するか?

通常:SaO2=94~98%
CO2ナルコーシスのリスクがある状態:SaO2=88~92%

上記を一般的には目標とします。酸素を投与すればするだけ良い訳ではないので(酸素の有害性)、必ず目標を設定して酸素投与するようにしたいです。

1:分類まとめ

以下に酸素療法それぞれの特徴を載せました。ご参照ください(以下でそれぞれのデバイスについて解説します)。

2:各論

2.1:鼻カニュラ

流量:1~4L/min *5L/min以上にはしない(鼻粘膜障害あるため)
low flow system
FIO2:~40%まで 下図参照
呼気再吸入:なし
その他の特徴:食事摂取可能

通常の鼻カニュラで高いFIO2に設定することは出来ません。COPDのようなCO2ナルコーシスのリスクがある患者では呼気再吸入が無いことが利点になりますが、low flow systemなのでFIO2が換気努力に依存し変動することが難点です(その場合はhigh flow systemのベンチュリーマスクへ切り替えます 後述)。

2.2:酸素マスク

流量:5L/min~ *4L/min以下:呼気マスク内再吸入が起こるため避ける、10L/min以上:FIO2が頭打ちのためこれ以上には設定しない
low flow system
FIO2:~60%まで 下図参照
呼気再吸入:あり

酸素マスクの問題点は呼気が酸素マスク内にたまり再吸入リスクがあることです。酸素流量が少ないと酸素マスク内の呼気をwashoutすることが出来ないため、再吸入リスクが上昇します(このため一般的には4L/min以下の流量は避けます)。

2.3:酸素マスク+リザーバーバッグ付き

流量:6L/min~(一般的には10L/min程度で開始する) *5L/min以下:リザーバーバッグが虚脱するため避ける
low flow system
FIO2:60%~
呼気再吸入:マスクがきちんと密着すると呼気再吸入のリスクはない(きちんと密着していないとあり)

リザーバー内の高濃度酸素を吸入することが出来るため、高いFIO2を維持することが特徴です。機序を解説すると、酸素がリザーバー内にたまり(原理的には呼気がリザーバー内に入らないようになるため、リザーバー内はFIO2=100%)、吸気時にはリザーバー内の酸素を吸入します。そして呼気はリザーバー内へ入らず、酸素マスクの一方弁から大気に放出されます(下図参照)。このため常にリザーバー内の高濃度酸素を吸入することが出来ます。注意としては低い流量ではリザーバーバッグが虚脱してしまう点で、必ずリザーバーバッグが拡張していることを確認する必要があります(しばしばリザーバーが虚脱したまま間違って使用されている現場を目撃します)。

2.4:ベンチュリーマスク

流量:ディリューターごとに最適の流量が決まっておりその流量に設定(下図参照)
high flow system
FIO2:24~50%まで*ディリューターごとに決まっている(下図参照:色も対応しています)
呼気再吸入:なし

酸素を高流量で流し、ベンチュリー効果による陰圧で大気を酸素とブレンドすることで一定のFIO2を決めるhigh flow systemに該当する酸素療法です。設定したいFIO2ごとにディリューター(diluter)を設定し、色ごとにFIO2との対応関係があります。流量もディリューターごとに決まっています。
*FIO2を上げようとして流量を上げてもディリューターを変更しないと意味がない点に注意が必要です。
高いFIO2を設定することは出来ず、COPD患者でCO2ナルコーシスリスクが高い患者で正確にFIO2を管理したい場合に有用です。
以下に実物の写真を体裁します( https://www.medicalexpo.com/ 参照)。

関連画像

2.5:HFNC(high flow nasal cannula)

流量:5~60L/min 一般的な開始流量:30L/min 調整幅:Δ5~10L/min
high flow system
FIO2:21~100% 一般的な開始FIO2=50% 適宜調節
呼気再吸入:なし

以下の様な構造になっており、通常の鼻カニュラは加温・加湿が高流量では難しいですが、それを可能にすることで気道抵抗を避けて高流量の酸素を提供することができる酸素療法です(下図参照)。最大吸気流量よりも高い酸素流量を提供しFIO2を一義的に決定出来るため、high flow systemに分類されます。
開始基準に絶対的な基準はありません。その他の効果として、鼻咽腔の死腔換気を減少させる効果、PEEPの効果などが指摘されています。
しかし、開始後6時間以内に改善を認めない場合は積極的にNPPV、人工呼吸管理へ切り替えるべきと思います(またHFNCに関しては別に詳細を述べます)。

以上酸素療法の種類に関してまとめました。酸素は医療現場では身近な存在のため、ついつい適応を十分に考えず使ってしまったり、適切なデバイスかどうか考えずに使ってしまう場合があります。それぞれのデバイスの違い・特徴を理解して酸素療法に習熟する一助になれば幸いです。