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抗ヒスタミン薬

0:ヒスタミンの作用

ヒスチジン(L-histidine)が脱炭酸酵素によりヒスタミンとなります。このヒスタミンは大きく以下の2つのプールに存在します。

1:slowly turning over pool:肥満細胞、好塩基球→分泌顆粒に貯蔵
2:rapidly turning over pool:胃、中枢神経系→必要時に合成され放出

このなかでもここでは肥満細胞の貯蔵され放出されるヒスタミンに関して考えます(これがアレルギー機序の原因として最多だからです)。ヒスタミンは肥満細胞に貯蔵されていますが、何らかの刺激(アレルギー、感染症、バンコマイシンの急速投与、寒暖差、ストレスなど様々 アレルギーだけではないことに注意!)が肥満細胞に加わることでヒスタミンが放出されます。この放出されたヒスタミンがヒスタミン受容体と結合することで作用を起こします(下図参照 レジデントのためのアレルギー疾患診療マニュアル参照)。

このヒスタミン受容体は普段”ON”と”OFF”の状態を行ったりきたりしている平衡状態にあります。ヒスタミンが結合するとずっと”ON”の状態になり、抗ヒスタミン薬が結合するとずっと”OFF”の状態になります(下図  N Engl J Med 2004;351:2203参照)。

1:分類

第1世代と第2世代以降の違いは、第2世代以降は親水性のカルボキシル基、アミノ基を導入することで脳血液関門を超えにくくしている点(つまり副作用の鎮静作用を減弱している点)があります。以下に代表的な薬剤のまとめ図を載せます。

2:副作用

2.1:抗コリン作用
注意するべき点としては「抗コリン薬ではなくても抗コリン作用を持つ薬剤が多く存在する点」が挙げられます。抗ヒスタミン薬(特に第1世代)、抗精神病薬、ベンゾジアゼピン系薬剤の一部などが挙げられます。

高齢者では特に前立腺肥大、緑内障に罹患している患者が多いため注意が必要です(その他中枢神経への作用でふらつき、せん妄、認知機能低下といった副作用もあるため、基本的に高齢者では第1世代抗ヒスタミン薬は使用しない)。

市販薬(特に総合感冒薬)には第1世代の抗ヒスタミン薬が含有されている場合が多いです。知らずに飲んでしまい抗コリン作用で高齢者が尿閉になってしまったりということがよくあるので注意が必要です。

抗コリン作用による副作用まとめ
・中枢神経:ふらつき、めまい、せん妄、認知症
・眼:眼圧上昇、毛様体筋弛緩(かすみ目)(緑内障禁忌)
・呼吸器:喘息には使用注意
・消化管:蠕動運動低下、便秘、嘔気
・膀胱尿道:排尿障害、(前立腺肥大症禁忌)
・心血管:高血圧、動悸、不整脈

2.2:鎮静作用
先ほど述べたように第1世代抗ヒスタミン薬は中枢移行性が高いため、眠気の副作用に注意が必要です(ヒスタミンは中枢神経で覚醒の中心的役割を担っているため、抑えられると眠気を引き起こします)。

市販薬のドリエル®は第1世代抗ヒスタミン薬のジフェンヒドラミンが含有されていますが、この鎮静作用を逆手にとって睡眠薬として販売されています。

2.3:QT延長作用

これも第1世代抗ヒスタミン薬は注意が必要です。

3:処方例

投与する前に確認するべき項目は
1:年齢、抗コリン作用の禁忌該当がないか(緑内障、前立腺肥大)
2:妊娠の有無
3:車の運転

の3点になります。

1:年齢、抗コリン作用の禁忌該当がないか(緑内障、前立腺肥大)
高齢者や抗コリン作用の禁忌に該当する患者の場合は基本的に第1世代抗ヒスタミン薬は処方しないようにします。

2:妊娠の有無
基本的に出来るだけ投与しないことが望ましいですが、投与するとすればロタラジンかセチリジンになります。

3:車の運転
フェキソフェナジン、ロラタジンは運転に関する記載がないため処方しやすいです。

→総合すると基本的には、
フェキソフェナジン(アレグラ®)60mg 2T2x朝・夕
クラリチン(ロタラジン®)10mg 1T1x
ジルテック(セチリジン®)10mg 1T1x
が最も処方しやすいと思います。

静注薬を使用しないといけない場合は、静注薬には第1世代抗ヒスタミン薬しかないですが、クロルフェニラミン(ポララミン®)もしくはヒドロキシジン(アタラックス®)を使用します。

4: 中毒 ジフェンヒドラミン中毒

抗ヒスタミン薬の中毒として代表的なものはジフェンヒドラミン中毒です。

ジフェンヒドラミンは分類のところの図にも記載がありますが、第1世代の抗ヒスタミン薬で市販薬にも多く含まれ(ドリエル®:50mg/1T、トラベルミン®:40mg/1T) 、市販薬の中毒として重要です(その原因の多くが自殺企図によるものです)。第1世代のため中枢移行性が良く、中毒では中枢神経症状を呈します。

症状としては(以下 Human and Experimental Toxicology 2000;19:489 より参照)
・minor(55%):抗コリン作用、頻脈、嘔気嘔吐、somnolence
・moderate(27%):agitation,confusion,hallucination,ECG変化
・severe(18%):delirum/psychosis, seizures,coma
となり、抗コリン作用のToxidromeを呈します。opsoclonusという不随意、不規則な眼球運動を呈する場合もあります(自験例でもあります NEJM 2010; 363:e40も参照 )。

用量と症状の関係性としては
・1g以下:神経症状は起こりにくい
・1g以上:せん妄、精神症状、痙攣、comaが起こうる
とされています(下図参照)。

また中毒というとTriage®(トライエージ®)というイメージがあるかもしれませんが、ジフェンヒドラミンはトライエージでは検出できませんPCPの項目が偽陽性になりうる点で注意が必要です 下図参照)。

治療は基本的には保存的加療になります。

以上抗ヒスタミン薬(H1受容体拮抗薬)に関してまとめました。救急外来や一般外来でも蕁麻疹、アレルギー性鼻炎など処方する機会が多い薬剤と思います。処方する際の参考になればと思います。