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脊髄疾患 総論・まとめ

0:はじめに

脊髄に病変をきたす疾患は膨大です。ここでは、脊髄疾患ということまでは分かったけど、診断が分からない場合にどのように系統的アプローチをしていけばよういかを解説します(主に Pract Neurol 2018;18:187 より引用しています・秀逸なreviewです)。脊髄疾患の鑑別においては、

1:発症様式と経過
2:脊髄内での病変分布(短軸)
3:病変の長さ(長軸) long or short

特に上記3点に注目して鑑別をすすめていくのが良いと思います。
1の「発症様式と経過」「病歴が全て」です。例えば、脊髄梗塞は突然発症の腰背部痛とそれに続く神経症状が病歴でとれない限り診断は不可能に近いです(MRI画像だけでは難しい)。

2の「脊髄横断面内の病変分布」は神経診察が何よりも重要です。両側運動麻痺と温痛覚障害で深部感覚が保たれている場合は、前脊髄動脈症候群を考えますし、運動障害側と温痛覚障害側が逆の場合はBrown-Sequard症候群を考えます。
神経診察からこのように病変分布を推測することはもちろん、MRI画像検査も病変分布の同定に有用です。以下は免疫介在性疾患に限ってですがまとめたreviewもあります(Journal of Neurology https://doi.org/10.1007/s00415-019-09206-2より)

また急性の脊髄障害をきたす疾患を横断面から分類した図もあり分かりやすいので体裁します( Clin Neuroradiol 2015;25:183 )。

3の「病変の長さ」は神経診察だけでは分からない場合もあり、ここは2でも同様ではありますが脊髄MRIでの病変の広がりをとらえることが重要です。
上記3点を踏まえた上で、経過から各疾患を分類すると下記の図になり、よくまとまっているため体裁します。

これらの情報でも初期には診断が分からない場合も多々あります。ここで治療経過や自然経過で診断がつく場合もあるため、「一旦診断を保留にする」ことも重要です。 先の論文に は、”Neurology in these circumstances can be linked to gardening; watching it grow sometimes reveals its identity.” と記載があり、ガーデニングの様に、観察して育ってくると疾患が分かることもあります(論文でこのような素敵な表現を言ってみたい・・・)。

特に診断が難しいとされているのは
1:脊髄サルコイドーシス
2:SDAVF 脊髄硬膜動静脈婁
3:傍腫瘍症候群

上記3疾患が挙げられています。

1:急性経過の脊髄疾患

病変の範囲が長軸で長いか、短いかを分類し、そのあと短軸での病変分布から鑑別していくアプローチをとります(以下のフローチャート参照)。

1.1:長い病変の場合

中心灰白質→NMOSD鑑別  *円錐部を含む場合:MOG抗体関連疾患、SDAVFを考慮
 AQP4/MOG陰性の場合→自己免疫性、サルコイドーシス、傍腫瘍症候群、脊髄腫瘍、特発性を考慮する
前角→ウイルス疾患
前脊髄動脈領域→脊髄梗塞(必要な場合はNMOSDを除外する)
両側対称性後索→代謝性疾患

1.2:短い病変の場合

・脊髄内面積半分以下、側索、後索→MS考慮
・target lesion、結節像、軟膜造影効果→サルコイドーシス、結核、寄生虫
・腫瘤→腫瘍(原発性 or 転移性)
・脊髄内面積半分以上→NMOSD非典型的であるが考慮する

2:慢性経過の脊髄疾患

慢性経過の脊髄疾患はある程度時間的余裕をもって鑑別に望めますが、鑑別が急性疾患よりもさらに多岐にわたります(以下にフローチャートを載せました)。

3:各疾患ごとの特徴まとめ

下図はMS, NMOSD, MOG抗体関連疾患、脊髄サルコイドーシス、神経ベーチェット病、SDAVF、傍腫瘍症候群、頚椎症性髄内浮腫の画像的特徴を長軸、短軸、造影効果、経過、臨床特徴から私が作ってまとめたものです。病歴と神経診察はもちろんですが、神経放射線の知識も脊髄疾患の鑑別では極めて重要なのでもしよければ参考にしてください。

以下に上記で取り上げた疾患の各論を簡単に載せます。(以下 Journal of Neurology https://doi.org/10.1007/s00415-019-09206-2より多数引用があり・これも免疫介在性脊髄障害の秀逸なreviewです、またその他の画像の引用先は上図内に記載あります)

3.1:多発性硬化症
・経過:急性経過
・長軸:short lesionが一般的、頚髄>胸髄に多い
・短軸:側索、後索に多く、短軸面積の半分以下が多い、左右非対称、白質と灰白質の境界は関係なく病変は分布し、脊髄腫大はほとんどなく、T1低信号を認めることはまれ

・造影効果:活動期に認め、境界明瞭なことが多い(下図左:非造影、右:造影)

3.2:NMOSD
・経過:急性(血管障害と間違えるほど突然発症に近い場合もある)
・長軸:long lesoinの代表的疾患(14%で初期はshort lesionとの報告もあり、short lesionでも除外は出来ない)
・短軸:中心部灰白質主体、横断で50%以上の範囲、Bright spotty lesion:感度低い・特異度高い、T1低信号:急性期
*MSと異なり無症候性病変はまれ
*急性期脊髄腫大(慢性期は萎縮)

・造影効果:境界不明瞭 *ring状造影効果はMSでも認める

・ 3椎体以上の病変、横断像にて中心部(灰白質)を障害している場合は常にNMOSDを考慮する

3.3:MOG抗体関連疾患
・経過:さまざま
・長軸:long lesion 79% *short lesionもあり 当初は胸腰髄・円錐部に病変をきたす場合が多いとされた
・短軸:灰白質主体、H字sign

・造影効果:認めない場合が多い

3.4:脊髄サルコイドーシス
・経過:急性、亜急性、慢性 いずれもありうる *特に亜急性~慢性期の脊髄障害では鑑別に挙げる必要がある
・長軸:long lesion、頚髄~上部胸髄に多い、脊髄腫大なし
・短軸:


・造影効果:辺縁部優位の造影効果・軟膜造影効果、脊髄周辺部に造影効果があり、実質部にむけて伸びる(“outside in” ,“centripetal”と表現する  )、これは血管周囲腔に沿って伸展するためとされている
“Trident sign”(ポセイドンのほこの様なもの) Neurology 2016; 87: 743

3.5:神経ベーチェット病
・経過:さまざま
・長軸:long lesion
・短軸:”bagel sign”が特異的な所見としては有名


・造影効果: まとまった報告に乏しい

3.6:SDAVF 脊髄硬膜動静脈婁
・経過:慢性進行性
・長軸:long lesion、連続性病変(非連続性病変はまれ)、胸腰髄(Th5-L3)に多く、頚髄領域はまれ、特に円錐部に病変を認める場合が多い(立位で静脈圧が最も高くなるため)
*慢性経過で円錐部に高信号を認める50歳以上の高齢者では必ず考慮する
・短軸:辺縁部T2WI低信号、flow voidの検出

・造影効果: 86%で認める “missing piece sign”は連続病変の中に1箇所の造影されない箇所がある所見で43%認め、他疾患では認めない特異的な所見 JAMA Neurol 2018;75:1542 (下図は右が造影、左が非造影 一部だけ造影欠損部がある)

3.7:傍腫瘍症候群
・経過:さまざま
・長軸:long lesion
・短軸:側索に認める場合が多いとされる

・造影効果: まとまった報告なし
・その他:関連する抗体のまとめは下図 Semin Neurol 2008;28:105

3.8:頚椎症性髄内浮腫
・経過:慢性
・長軸:3椎体以下のことが多い
・短軸:白質主体、脊髄腫大を伴う *灰白質を中心とする脊髄軟化(myelomalacia)とは異なる病態とされている。
・造影効果: “pancake like enhancement” 局所的なBBBの破綻による造影効果 Neurology 2013; 80: e229 *必ずしも圧迫位置と一致しない (前屈・後屈でのずれかもしれない)  (下図は左:非造影、右:造影)

先のreviewから以下に疾患ごとの特徴も載せます。

以上脊髄疾患に関してまとめました。ここでは取り上げなかった疾患もあり、各論よりも全体的なアプローチに主眼を置きました。