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セフェピム脳症 cefepime-induced encephalopathy

先日セフェピム脳症の症例を久しぶりに経験しました。ESRD患者のSerratia菌血症に対してCFPM投与によって、投与2日で不穏状態になってしまい、中止後3日程度で自然と意識状態は改善しました。疾患の臨床像、自然経過を勉強するためいくつかreviewを読みまとめました。

1:病態

抗菌薬関連脳症(AAE: antibiotics associated encephalopathy)という概念があり、抗菌薬投与中の患者の意識障害の鑑別として考える必要があります。抗菌薬関連脳症は詳細なreviewがあり(Neurology 2016;86:963)、大きく3つのtypeに分類します。ざっくりとまとめると(下図も参照)、


AAE type1
抗菌薬:Penicillin、セフェム系
病態:GABA受容体阻害
発症:5日後くらい、改善5日くらい
症状:seizures
画像所見:MRI正常

AAE tyep2
抗菌薬:スルフォンアミド、キノロン、マクロライド系
病態:dopamine receptor/NMDA receptor
発症:5日後くらい、改善5日くらい
症状:psychosis
画像所見:MRI正常

AAE type3
抗菌薬:メトロニダゾール
病態:VitaminB1のリン酸化障害(Wernicke encephalopathyに画像、臨床像ともにやや似る)
発症:開始21日後くらい、改善13日程度
症状:cerebellar ataxia
画像:MRI 小脳歯状核、脳梁、脳幹 DWI高信号、拡散制限
*メトロニダゾール脳症についてはこちらをご参照ください。

上記のように分けられます。

セフェピム脳症は上記のtype1に分類され、GABA受容体に拮抗することで神経症状をきたすとされています。セフェピムは85%が腎臓から排泄され、半減期は腎機能障害があると13時間になります(通常は2時間)。このため、腎機能障害が背景にある患者で特に起こりやすいとされています。

病態図をまとめたものがあったので体裁します。 Critical Care 2017; 21: 276

2:臨床症状

セフェピム投与から神経症状の発症までの中央値は5日(±4)とされています。

呈する症状としては以下の通り、意識障害80%、見当識障害/不穏47%、ミオクローヌス40%、NCSE31%、痙攣発作11%、失語9%と報告されています。 Open Forum Infect Dis. 2017 Oct 10;4(4):ofx170

患者背景は何といっても腎機能障害が重要で87%に腎機能障害があり(ESRDは29%)、50%の患者で腎機能用量よりも多い量を投与してしまっている結果でした。

セフェピム投与ICU患者100例をretrospectiveに単施設(Mayo clinic)で検討した研究では、15%においてセフェピム脳症をきたし、1:CKD、2:腎機能での用量調節をしていないの上記2点が脳症発症と関係していたことが指摘されています。 Critical Care 2013, 17:R264

3:治療経過・自然経過

基本的に治療としては原因薬剤のセフェピムを中止することしかありません。抗てんかん薬の使用や、血液浄化療法をした症例なども報告ありますが、それらの治療介入に効果があったかどうかの因果関係ははっきりしません。

報告では、セフェピム中止後中央値2日で神経症状が改善するとされています。セフェピム脳症は結局のところ除外診断なので、だいたいの時間経過が合うかどうかが極めて重要なのでだいたいの改善までの数字をイメージしておくことが重要と思います。

私は基本的にみんな薬剤を中止すれば基本意識状態は元に戻るものと考えていましたが、実際には以下の通り完全に改善が50%、症状改善が39%、改善なしが8%と改善しない症例もあるようです(神経学的後遺症を残してしまう可能性があると投与することが怖いですね・・・)。

4:まとめ

最後にtake home messageとして今まで勉強してきたことをまとめます。

・抗菌薬関連脳症のなかでセフェピムはその代表的な抗菌薬。
・背景に腎機能障害がある患者はセフェピム脳症のリスクであり注意。
・セフェピム使用中は腎機能に合わせて適切な容量調節を。
・投与から5日程度で神経症状が出現し、投与中止から2日程度で神経症状が改善。

抗菌薬関連脳症は「除外診断だけれど、積極的に疑うべき場面が多い」イメージがあります。気づかれていない症例も多いと思われ、”underdiagnosed”なので病棟でのせん妄患者さんなどでも積極的に疑いに行く姿勢を持ちたいです。