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なぜ上肢Barre検査を脳梗塞疑い患者にするのか?

「上位運動ニューロン」、「下位運動ニューロン」、「神経筋接合部」、「筋肉」という順に電気刺激が伝わることで筋肉は収縮する。それぞれ、上位運動ニューロン下位運動ニューロンの障害を「運動麻痺(motor paralysis)」、神経筋接合部の障害を「筋無力(myasthenia)」、筋肉の障害を「筋脱力(weakness)」と一般的に表現する。

このうち脳梗塞を疑う患者において調べるのは「上位運動ニューロン」である。例えば上肢の筋力を調べる際には一般的にMMTを用いるが、脳梗塞疑いの患者では通常上肢Barre検査を行う。これはいったいなぜであろうか?

調べたい神経と特定の筋肉の対応関係を考えると理解しやすい。例えば「総腓骨神経」に問題があるかどうか調べる場合は、「前脛骨筋」と「総腓骨神経」はほぼ1対1の対応関係になっているため「前脛骨筋」の筋力を調べることが有用だ。このように末梢神経と筋はほぼ1対1対応の関係にある

これが神経根のレベルになるとどうだろうか?例えば「前脛骨筋」はL4, L5と対応関係にある。1対2-3といった対応関係になり、神経根レベルでは末梢神経と比べるとやや対応関係が不明瞭になる

これがさらに上位のレベル(例えば脊髄や大脳)になるとどうであろうか?
上位運動ニューロンでは「大脳のまさにこの部分が前脛骨筋と対応している」という1対1対応の関係は大脳レベルでは無く、「だいたいこのあたりが足の領域」といったより大まかな対応関係になる(例外として手はかなり分化しているため細かい対応関係にある場合がある)。

つまり「上位運動ニューロンと個々の筋肉は1対1対応の関係にあるわけではない」ということがいえる。

上位運動ニューロンの障害にMMTといった各具体的な筋肉の筋力を比較することがあまり得策ではないことが今までで分かったと思う。

ではどうすれば微妙な麻痺をとらえることができるか?
そのためには「上肢の特定の部位ではなく、全体に負荷がかかる診察をする」ことで軽微な麻痺をとらえにいけばよい。

上肢は屈曲位にすることで負荷をかけ、肘は伸展し、前腕は回外位にし、手指は進展する。これは上肢特定の部位ではなく、全体の筋肉において負荷がかかる姿勢である。こうすることで、上肢の特定の筋肉の障害でなくてもどこかの障害があれば回内、下垂、手指屈曲といった所見をとらえることが出来る。これが上肢Barre検査を行う意義だ。

いままでみて分かった通りMMTは筋肉と調べたい神経の対応関係が明瞭な場合に有用である。具体的には末梢神経障害や神経根の障害の場合だ。また軽微な左右差を検出するには優れておらず、やはり上位運動ニューロンの障害を検出するには上肢barre検査といった工夫が必要となる。