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片側上下肢・運動障害へのapproach

0:片側上下肢(顔面は保たれる)運動障害

ここでは顔の症状はないが、片側上下肢の運動障害を訴える患者へのアプローチを考える。特にここでも脳血管障害と鑑別になる「突然発症」の場合を考えていく。顔を含まなない上下肢の運動障害の場合は、必ず「本当に脳が責任病変でよいのか?」「脊髄が責任病変の可能性はないか?」という視点でのアプローチが重要となる。

1:急性脊髄硬膜外血腫

急性脊髄硬膜下血腫は非常にまれな疾患であるが、脳梗塞とpresentationが非常に似通っていて、誤診も多く、脳梗塞と誤ってrt-PAを投与されてしまったり、抗血栓薬を投与されてしまう症例が多く報告されている。

病態は硬膜外静脈叢からの出血により血腫が出来てしまい、それが脊髄を圧迫することで神経症状が出現するとされている。部位としてはC6を中心とする頚髄~上位胸髄が多いとされている。原因は特定できないことが多く、何か外傷や体をひねったという病歴が全くないことが多い。

症状は背部痛・後頸部痛・上肢への放散痛から発症することが特徴であり、その後神経所見が出現することが挙げられる。血腫が片側から脊髄を圧迫するとBrown Sequard syndromeを呈し、全体であれば対麻痺を呈する。血腫が脊髄の上下方向へ広がっていくと圧迫が解除されて一過性脳虚血発作に似たpresentationとなる場合もある。

このように脳梗塞と非常に似通った点があるが、ポイントは1:背部痛発症という所見をとらえる、2:顔面を含まない上下肢の障害では病変部位が脊髄である可能性を考えるという2点が挙げられる。

以下に具体例を提示する。この症例での当初は脳梗塞疑いというコンサルテーションで紹介となったが、温痛覚障害が麻痺側と逆側になること。感覚障害にレベルがある点から脊髄の障害と判断し、診断に至った。

2:脊髄梗塞

脊髄梗塞も稀ではあるが、突然発症の背部痛と顔面を含まない上下肢の症状の場合は必ず考えたい。特に注意が必要な点としては前脊髄動脈の梗塞では、発症当初は左右差を認めることが多いという点だ。前脊髄動脈は髄内で左右に分岐するため、障害部位に当初左右差が出ることがある。脊髄の障害というと、つい脊髄全体の障害をイメージしてしまうが当初は左右差がありうることを常に念頭に置いた対応したい。以下に特徴をまとめる。

3:脊髄の片側障害(Brown Sequard syndrome)へのapproach

細かい神経診察は非専門医が救急の現場で実施することは難しいため簡単に確認できる項目に絞って話をする。脊髄の片側障害の特徴的な点としては1:運動麻痺側と温痛覚障害側が左右逆である点、2:温痛覚障害にデルマトームのレベルがある点の2点が挙げられる。

運動麻痺と温痛覚障害に関して、「温痛覚障害」は普段救急でルーチンに行う神経所見ではない。しかし、脊髄障害を疑った場合Wallernberg症候群(延髄外側症候群)を疑った場合の2つの場合は唯一診察が役立つ。

脊髄内では温痛覚を伝える経路は脊髄内で対側へ交叉してから、上行する経路をたどる。このため、運動麻痺側と温痛覚障害側が逆になる点に注意が必要だ。これは脊髄障害にきわめて特異的な所見であり、大脳病変ではありえないため非常に有用な所見である。温痛覚は調べること自体は簡単なので、上記脊髄障害やWallernberg症候群を疑った際には是非実施してほしい。

以上顔面を含まない片側上下肢運動障害へのapproachに関してまとめた。