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CKD(慢性腎臓病) 病態

1:CKDの病態

まず原疾患によって「ネフロン」の喪失が起こる。そうすると、糸球体濾過量を保つために「残っているネフロン」が普段より頑張ることになる。そうすると残ったネフロンにかかる負担が大きくなり、「糸球体内圧」が上昇する。糸球体内圧が上昇するとその糸球体にダメージが及び、その残っているネフロンも喪失してしまう。ネフロン数は出生時に決まっており、そこから増加することはないため、新しくネフロンを動員することは出来ない。CKDの病態はこうした悪循環の中にある。

従業員5人の会社を例に考えてみる。1人が仕事に来なくなってしまう(機能ネフロンの喪失)と、残り4人で今までと同じ量の仕事をこなすには1人あたりの仕事量が増える(残存ネフロンへの負担増大、糸球体内圧上昇)ことになる。すると徐々に残った従業員の負担は大きくなり、疲れてくる(糸球体障害)。
ついにまた1人仕事に来なくなってしまうと、残った3人で今までの仕事をしないといけなくなりより負担がかかる。この会社は新規の従業員を雇うことができないあため(ネフロン数は出生時に決まっており、数は増えない)、残った従業員の負担は増える一方である。

ここで注目する点は、「最初に機能ネフロンを喪失した原因と独立して糸球体障害は悪循環の中で悪化していく」ことだ。CKDの原因は複数あるが、この点は共通している。従業員の例で考えると、最初の1人が会社に来られなくなった理由が「病気」であろうと、ただの「さぼり」であろうと関係がないということだ。

2:CKDの評価

機能ネフロン喪失が起こる初期のうちは、残存ネフロンが頑張ることで糸球体濾過量を維持しようとするので、Cre(mg/dL)は上昇せず腎機能障害がすすんでいるかどうかは見かけ上分からない。会社の内部事情を知らない外部の人からすると、頼んだ仕事は今まで通り出来ているので内部の従業員が減っているかどうかは分からないことと同様だ。

ではどうすればネフロンの喪失が起こっていることが分かるのか?従業員が減って、一人当たりの負担が増えていることが分かるのか?先の悪循環の図での「糸球体内圧上昇」が分かればよいはずだが、糸球体内圧を直接測定することは出来ない。従業員に直接ストレスチェックアンケートが出来ないブラック企業の状態だ。それでは何か代わりの方法で「糸球体内圧」を推定することはできないか?

それは「尿所見」である。従業員が減った状態で会社全体として今までと同じ量の仕事をこなそうとすると、一人当たりの業務量は増え必然的に出来上がった「仕事」にミスが多くなる。糸球体は糸球体濾過によって「尿」を作るという「仕事」をしている。すると「尿」に異常が出てくる。

糸球体内圧が上昇すると、糸球体が肥大してくる。そうすると一番外側に位置する上皮細胞がぐいっと引き延ばされるため、上皮細胞同士の間隔が広がる。すると、隙間ができてしまい、尿中への蛋白漏出が起こりやすくなる。これが、「微量アルブミン量」である。この「微量アルブミン尿」を検出すれば、糸球体濾過量は落ちていなくても腎機能障害がひそかに進行していることが分かる。

唐突だが、CKDの分類, stagingとして以下の表を目にしたことがあるだろうか?この表では糸球体濾過量(GFR)と、尿アルブミン定量の2軸でstagingを分類している。この理由は今まで話した内容だ。

つまり、糸球体濾過量だけをみていても最初は残ったネフロンが頑張って仕事をすることでみかけ状保たれていることがある。しかし、微量アルブミン尿を検出することでそうした状態でも糸球体障害が進んでいることを検出できるのだ。

3:治療介入 進行を遅らせるためには?

この悪循環を少しでも遅らせるためにはどうすればよいか?アプローチする方法としては糸球体内圧を下げる方法がある。ACE阻害薬とARBは糸球体内圧を下げる働きがあるため、糸球体障害の進行を抑制する効果がある。

糸球体内圧は糸球体濾過量と同様に
1:血流量
2:輸入細動脈血管抵抗
3:輸出細動脈血管抵抗
の3要素により決定する。(図では糸球体濾過量を規定する要素としている)

レニン・アンジオテンシン・アルドステロンシステム(以下RAAS)が活性化している状況では、輸出細動脈の血管抵抗が上昇し、それにより糸球体内圧が上昇している。

ACE阻害薬、ARBはこれを阻害するため、輸出細動脈の血管抵抗を下げることで糸球体内圧を下げることに貢献する。これにより、糸球体障害の悪循環を抑制することが出来ると考えられている。

CKD患者を診療する際にただcreと尿所見をみているよりも、このような生理学的な背景を理解するとより深く考えながら診療にあたることが出来ると思う。