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糸球体 解剖と病態

糸球体の解剖

糸球体は4つの構造で成り立つ。
1:上皮細胞(最も外側に位置し、蛋白漏出を防ぐ役割)
2:基底膜(上皮細胞を裏打ちしており、バリアの構造)
3:血管・血管内皮細胞
4:メサンギウム(最も内側に位置し、これらの構造をつなぎとめる糊の様な役割)

血管が固まりになっており、その外側に血液から蛋白の漏出を防ぐメカニズムとして上皮細胞があり、その内側に構造がばらばらにならないようにつなぎとめるメサンギウムが存在しているイメージだ。

糸球体疾患の分類

糸球体に障害を起こす疾患は数多くあるが、それを解剖学的に「基底膜より内側の障害か外側の障害か?」という点で分類するとわかりやすくなる。

まずは「基底膜の内側」の場合。上図のように、血管内膜とメサンギウムの間には基底膜が存在しない。そのため、血液中の炎症細胞、抗体、免疫複合体はメサンギウムへ行き来がしやすい状態だ(基底膜というバリアがないため)。このため炎症を引き起こしやすく、「腎炎」の病態をとることが多い。
具体例としては感染後糸球体腎炎、ループス腎炎、IgA腎症、膜性増殖性糸球体腎炎が挙げられる。

次に「基底膜の外側」の場合。メサンギウムとは異なり、上皮細胞は全て基底膜によって裏打ちがされている。このため、血液中の炎症細胞、抗体、免疫複合体が上皮細胞に到達することが難しく炎症は起こりにくい。よって上皮細胞で障害が起こる場合は上皮細胞で特発的に障害が起こる場合や、全身性の免疫を介さず局所的な免疫反応が起こる場合が考えられる。いずれの場合も上皮細胞が障害されるため、「ネフローゼ」の病態を呈することが多い(下図)。
具体例としては微小変化型ネフローゼ症候群、膜性腎症、 巣状分節性糸球体硬化症 が挙げられる。

糸球体疾患の分類をまとめると下図となる。

ネフローゼ症候群

・蓄尿U-Protein3.5g/day以上or 随時尿U-Protein/U-Cre>3.5g/gCre以上
・血清Alb<3.0g/dL
・合併症:血栓症(ATⅢ排泄)、感染症(免疫グロブリン排泄)、脂質異常症

原因

1次性:微小変化型、膜性腎症、巣状分節性糸球体硬化症、膜性増殖性糸球体腎炎
2次性:糖尿病関連腎臓病、SLE(ループス腎炎)、アミロイドーシス、多発性骨髄腫、IgA腎症、Alport症候群

微小変化型ネフローゼ症候群 : Minimal change nephrotic syndrome(MCNS)

病態:上皮細胞の融合のみ、足突起消失(ネフローゼ全般で認める所見で非特異的)
→光学顕微鏡では異常所見を認めない、免疫複合体の沈着は認めない
原因:1次性ネフローゼ症候群の最多原因 小児 90%, 若年 50%, 成人 25%
臨床像:突然~急性発症の浮腫 Albが著明に低下して腎前性AKIを呈する場合もある
検査:SI(selectivity index)≦0.1 IgG, トランスフェリン比 高選択性
治療:ステロイド *成人再発例はシクロスポリン併用

膜性腎症 Membranous nephropathy

病態:上皮下in situでの免疫複合体の形成、沈着
→基底膜の反応性形成、増殖:spike形成 PAM染色での虫食い像
*蛍光抗体:びまん性の顆粒状沈着(IgG)


原因:原発性75%→抗PLA2R抗体 続発性:SLE, 梅毒、HBV,HCV, 悪性腫瘍(造血器腫瘍), 薬剤(ブシラミン、金製剤、D-ペニシラミン),Sarcoidosis(rare)
*高齢者のネフローゼ症候群の原因最多
・臨床経過
①自然経過で完全緩解するもの:5-30%
②軽度回復(尿タンパク2g/day以下):25-40%
③末期腎不全への進行14%/5年、35%/10年、41%/15年
*30% disease
治癒せずに自然緩解する:30%
・タンパク尿持続、腎機能増悪なし:30%
・腎機能増悪し末期腎不全へ:30%
・治療 原則:自然緩解がみられる場合があるため全ての患者が免疫抑制が必要というわけではない

巣状分節性糸球体硬化症 FSGS:focal segmental glomerulosclerosis

病態
1:上皮細胞障害:ネフローゼ、基底膜からの剥離
2:硝子様物質(血液由来)の内皮下沈着→血管内腔閉塞→虚脱、硬化(ボーマン嚢と癒着することもある)

*硬化:メサンギウム細胞の増加を伴わない、細胞外基質の増加を指す
*腎臓の皮質深部で起こりやすいので、表層のみ生検された場合はMCDとされてしまいやすい
→治療抵抗性MCDはFSGSの可能性も考慮するべきである
*HIV関連腎症、逆流性腎症、肥満
検査:低選択性、顕微鏡的血尿、高血圧
治療:ステロイド抵抗性の場合あり 難治性ネフローゼ症候群を呈する
*LDLアフェレーシス療法がおこなわれる場合もある

膜性増殖性糸球体腎炎 MPGN

病態
免疫複合体の沈着 内皮下→ネフローゼ、メサンギウム領域→腎炎
・基底膜2重化:tram track→血管内腔の圧迫
*メサンギウム細胞の侵入という説が腫瘤であったが、現在はcontroversialである
・メサンギウム領域の増生→係蹄が分葉状構造を呈することが多い(メサンギウムの収縮力?)

原因
・primary:8-30歳台の若年者に限定される
・secondary:HBV,HCV,IE,SLE,LC,クリオグロブリン血症、TTP/HUS
検査:低補体を認めることが多い
*C3腎症:MPGNⅡ型ではC3単独の沈着を示す(免疫グロブリンなどを伴わない)  C3の顕著な低下、C4は低下しない

IgA腎症

・病態:メサンギウム領域への免疫複合体IgA沈着→腎炎 *C3沈着を同時に認める
病理:メサンギウム領域にIgAの顆粒状沈着、C3沈着、光学顕微鏡ではメサンギウム細胞の増多(これ自体はIgA腎症において特異的所見ではない)

・症状:無症候性の検尿異常で指摘されることが多い 先行感染1-2日後の肉眼的血尿 *溶連菌感染後は10-14日後である点が違う点
・検査:IgA上昇 20-50%
・合併:CKD(約20年後で40%が末期腎不全に至る)*CKDの3大原因の1つ
・予後因子:高血圧、タンパク尿、腎機能低下、喫煙 肉眼的血尿なし *IgA値は関係ないとされている
・治療:ステロイド、扁桃摘出術、ACE阻害薬 血圧管理130/80mmhg未満

Alport症候群

・90%がX連鎖性遺伝(遺伝子COL4A5)
・男性は10-30歳台で末期腎不全に至ることが多い *女性は進行が遅い
Ⅳ型コラーゲン蛋白の異常 遺伝子検査 家族歴や難聴は必須ではない
・合併症:両側感音性難聴、眼病変(前円錐水晶体など)
・降圧薬第1選択RAS阻害薬、腎移植後GBM抗体型糸球体腎炎起こすことがある