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呼吸生理 酸素化

1:酸素化の病態生理

ここでは今までの話を踏まえて酸素化にスポットを当てて考える。全体図のうち、直接酸素化(PaO2上昇)に関与する項目は下図赤字部分だ。

これをイメージで理解するために下図を利用する。下図では酸素をオレンジ色のつぶつぶで表現している。酸素化とはつまり酸素をどうやって血液に届けるかである。

まず酸素は二酸化炭素と異なり勝手に素早く血液に拡散してくれないため、この酸素のつぶつぶを血液の方や「ぐっ」と押し付ける圧力が必要だ。これが「平均気道内圧」である(平均としているのは単位時間あたりそのくらいの圧がかかっているかが重要なため)。

そして、酸素のつぶつぶの数が必要だ。いくらつよく酸素のつぶつぶを押し付けても、つぶつぶの数が少ないと話にならない。この酸素のつぶつぶの数が「FIO2」である。

そして、酸素のつぶつぶには試練がある。それは肺胞上皮、間質、血管内皮という構造を乗り越えないと血液には到達できないからだ。この構造物が障害となる場合を「拡散障害」と表現する。

そして血液に到達するわけだが、血液量とガス交換のバランスが悪いと酸素のつぶつぶは効率よく全身に届けられない。これがV/Q mismatchである。

この経路のいずれかに問題があれば酸素化に障害がおこる。

酸素化に関連して、少し話が逸れるが「患者さんのSpO2が低下した場合、動脈血液ガスを何のために取るか?」を改めて考えたい。多くの人が指につけたサチュレーションモニターの値が本当に正しいかどうかを知るために血液ガスを取る印象があるがそれは大きな間違いだ。もちろん本当にSaO2が下がっているかどうかを確認するという意義もあるが、それよりも「PaCO2が上昇していないか?」を知るために血液ガスをみているのだ。

PaCO2が上昇してPaO2が低下している場合は、背景に換気障害があることが多い。拡散障害やV/Q mismatchだけではPaCO2は基本的に上昇しないからである(死腔換気が増大している場合を除く)。換気障害があると、肺の疾患だけではなく、呼吸筋の問題であったり呼吸仕事の問題である可能性があるため対応が大きく異なる(酸素投与のみではなく、補助換気も必要となることがある)。このことを唯一すぐに知ることが出来るのが血液ガスだ。

なぜこの話をするかというと、特にSpO2の低下が軽度の場合(例えばSpO2=90%程度の場合)、酸素化の点からは大きく問題ないため換気のことはすっかり忘れてしまい「血液ガスを取らない可能性がある」ためだ。これは呼吸の全体像を理解せず、一部分のみに着目してしまったために起こる間違いである。

酸素化の低下が軽度だからといって肺の障害が軽度であることと同じではない。別の病態として換気不全による平均気道内圧が低下して酸素化が悪くなっていることが十分にありうるのだ。私たちは血液ガスでこれを見逃さないようにしないといけない。酸素化不良は日常頻回に遭遇するテーマなので、ここで改めて確認しておきたい。

2:治療での介入点

酸素化に関与する経路を改善すれば酸素化は改善する。人工呼吸器、酸素療法、そして抗菌薬や利尿・除水といった治療が酸素化のどの経路と関係しているかを述べる。

2.1:人工呼吸器

人工呼吸管理で介入しているのは「平均気道内圧」と「FIO2」の2点だ。
よく「PEEPを上げると酸素化が改善する」といわれるが、これは正確には「PEEPを上げるとそれによって平均気道内圧が上昇するため酸素化が改善する」となる。「PEEPを上げると酸素化が改善する」という言葉だけが独り歩きしている場合があるため注意しよう。


2.2:酸素療法

酸素療法は「FIO2」の改善のみに関与していることになる。

2.3:抗菌薬治療

細菌性肺炎での抗菌薬治療と酸素化の関係だが、抗菌薬で細菌を殺すことで肺胞での炎症を抑えることになる。肺胞内の浸出液が減少し含気量が改善することでV/Q mismatchが改善することで、酸素化が改善する効果がある。

2.4:利尿、除水

次に例えば心不全の場合での利尿、除水の効果だが、これも先の抗菌薬治療と似ており、肺胞内に水が多い状態では換気量が血流量に比して少なくなりV/Q mismatchが起こり酸素化が悪くなる。除水ではこのV/Q mismatchを解消する効果があるため、有用だ。

以上酸素化に関して、そこに関与する経路と病態、治療介入がどの点に介入しているのかを述べた。
酸素化不良の際、ただ漠然と考えるのではなく、「酸素化に関係するどこの経路が悪いのか?」、「この治療は酸素化のどの経路を改善しているのか?」を意識しながら治療することが重要だ。