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呼吸生理 旧バージョン

  • 2019年1月27日
  • 2020年4月30日
  • 呼吸

このチャプターは書き直した最新版があるので、こちらをご参照ください。

呼吸生理は人工呼吸管理の理解や、疾患の理解に重要だ。呼吸ある部分にだけ注目していると、「木を見て、森を見ず」となってしまうことが呼吸生理の最も難しいところだと思う。統合した理解のための全体図として下図を利用して説明したい。これを元に別の記事で肺炎ではどこが問題なのかといった疾患ごとの理解や酸素療法はどこに介入しているのかといった治療ごとの解説をしたい。

1:神経 呼吸のフィードバック

神経系は呼吸において一番上位に位置している。血液中PaCO2、PaO2の上昇や低下を呼吸中枢(延髄)で感知し、それ応じて呼吸回数や換気量の調整を行っている(下図の赤字部分参照)。神経系はこうした呼吸のフィードバック機構を管理している。

2:呼吸筋

神経からの指令を受けて呼吸筋を動かすことで換気が行われる。このうち横隔膜が呼吸筋のうち70%程度を占めるとされており、呼吸への影響が大きい。
末梢神経や筋肉疾患の患者では呼吸筋が弱くなってしまい、十分に働けない場合がある。
また、筋疾患でなくても例えばCOPDに長期罹患している患者は呼吸筋が長期にわたって酷使されているため呼吸筋が疲労している場合がある。長距離を走っていると下肢の筋肉に疲労が起こることと同じことが呼吸筋でも起こる。

この呼吸筋疲労のあるCOPD患者が「肺炎」にかかると、換気が十分に確保できなくなりCO2ナルコーシスに陥る場合がある。これは呼吸筋にとっては、すでに長距離走を走っている途中に100m走ダッシュをするようなものだ。

普段「呼吸」を考える際に、肺、肺胞のことばかりに注目し呼吸筋のことは忘れがちであるが非常に重要な要素だ。

3:呼吸仕事

呼吸筋がただ収縮すれば換気が起こるわけではない。実際にはそれに対しての「抵抗」がある。例えば大腿四頭筋はただ収縮するのではなく、下腿の重さという「抵抗」に打ち勝つことで下腿を伸展することが出来る。呼吸筋も同様に呼吸筋が働くときに抵抗があり、その抵抗を「呼吸仕事」と表現する。「気道抵抗」と「肺胞コンプライアンス」の2つが挙げられる。

「気道抵抗」は、呼気で気道が狭い状態だと空気が通過するのに抵抗が大きい状態だ。例えば、喘息では気管支平滑筋が収縮することで、気道が狭くなってしまい呼気に抵抗が大きくなる。これが気道抵抗が上昇している状態だ。

「肺胞コンプライアンス」は、肺胞の膨らませやすさだ。コンプライアンスが大きいと肺胞は膨らみやすく、コンプライアンスが小さいと肺胞は膨らみにくい。例えば、肺炎で肺胞内のサーファクタントが減少すると、表面張力が低下して肺は縮みやくなってしまう。これがコンプライアンスが低下した状態だ。
呼吸筋がこうした呼吸仕事に打ち勝つことで、換気が行われることになる。

4:換気

神経からの指令を受けた呼吸筋が呼吸仕事の抵抗を乗り越えて換気が行われる。換気により生まれる要素は2つあり、「量」と「圧」である。
「量」はPaCO2と関係し、「圧」はPaO2と関係している。
換気量が多くなれば、PaCO2は低下し、換気量が少なくなればPaCO2は上昇する。
同じように「圧(正確には平均気道内圧)」が減少すれば、PaO2は減少し、上昇すればPaO2は上昇する。

5:肺胞-血液

最後に肺胞-血液レベルの話となる。肺胞レベルでは肺胞上皮細胞、間質、血流分布を考える。代表的な病態はV/Q mismatchと拡散障害だ。


V/Q mismatchは「血流と肺胞換気のバランス」のことだ。Vは肺胞換気量を表現し、Qはそこ肺胞での血流量を表現している。血液がきちんと届いている肺胞で空気がきちんととどいていないと、血液が十分に酸素を受け取ることなく流れてしまう。そうすると低酸素血症につながる。

例えば肺炎で肺胞内に滲出液がたまると肺胞換気量は減少してしまい、そこを流れる血液は十分な酸素を受け取ることが出来ない。多くの肺疾患がこのV/Q mismatchにより低酸素血症をきたす。
まったく換気が行われなくなると、それを「シャント shunt」と表現する。ただ血液がガス交換をせずに素通りしている状態であり、この病態には酸素投与が効果はない。

次に「拡散障害」を説明する。自分が「酸素」になって気持ちで考えると、酸素はまず肺胞に届き、肺胞から肺胞上皮細胞を超え、間質を超え、血管内皮細胞を超えやっとのことで血液中に入ることが出来る。この途中の構造に異常があると、障害となり酸素が拡散しづらくなる。これが「拡散障害」だ。

COPDでは肺胞上皮細胞に異常があるし、間質性肺炎では間質に異常がある。肺高血圧症では血管内皮細胞に異常がある。これらがあると酸素が拡散する際の障害物となってしまい、低酸素血症につながる。

ここまで呼吸全体を考える上での重要な5つの要素を取り上げた。
ある一人の患者さんで呼吸のシステムで何が起こっているかは、上記の挙げた5つの要素をそれぞれ考え、最後にまとめて理解する必要がある。別項で具体的に疾患ではどうなるのか?治療はどこの要素に介入しているのか?を考える。