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はじめての精神科

著者:春日武彦(かすがたけひこ)さん 精神科医

一言紹介: 「心を病むとはどういうことか?」「僕たちが心を病む人と日常生活でどのように接すると良いか?」といった問題を筆者が精神科医としての経験をふまえてわかりやすく解説している。

オススメ度:★★★★★ 身の回りや職場でうつになってしまった人がいる、職場でトラブルばかり起こしてしまう人がいる、親が認知症にいなってしまい対応の仕方が分からないといった悩みがある人に特におすすめです。

難易度:★★☆☆☆ 本書のもともとの対象は医療・福祉関係者ですが、医療と関係ない人にも平易な言葉でわかりやすく書かれており理解できると思います。

内容紹介

Ⅰ章(手を出す前に考えておくこと)では他人と接するにあたってのヒントが書かれている。そのなかのひとつ、精神を病むことは”物事の優先順位が、常識や良識から逸脱するとき。”であると筆者は定義する。

例えば、「スパイに自分が狙われている」という妄想がある人にとって、最優先事項 はそのスパイを見つけることである。その優先順位に従って行動していると、他人の目からは奇妙に映ってしまう。その人のことを「自分とは違う理解できない人」と簡単に片づけてしまうのではなく、「優先順位がその人と自分とで異なっているせいで一見不可解な行動をしているのだ」と理解すると関係性は一歩前進する。

Ⅱ章(かれらの苦しみ 病気はなにをもたらすか)は具体的に統合失調症、うつ病、認知症、パーソナリティ障害それぞれへの対応法を解説している。「親が認知症と病院で言われた」、「会社でどうしてもトラブルばかり起こしてしまう人がいる」、「会社でうつ病と病院で言われた新入社員がいる」このような経験がある人は、多かれ少なかれそれが彼らにとって世界がどう見えていて何で困っているのか?、またどう接すればよいのだろう?と悩むと思う。

筆者はそれぞれの病気に関してただ教科書的な定義を羅列するのではなく、現実に即した対応を表現をしていく。 例えば、認知症の特徴の一つとして”どうしていいかわからないときに、かれらは助けを求められない。苦しまぎれに行動に走ってしまうところに、周囲との感情的な衝突が起きがち。”と筆者は述べている。認知症の定義や症状を教科書で読んでいても問題は一向に解決しないが、この文章を読むだけでもどう対応すればよいかの道しるべになってくれるだろう。

春日武彦先生の著作はこのほかにも数多くあり、全てにおいて共通し特筆すべき点は「ことば」である。本書にある”人間は「不幸慣れ」する。”、” どのように無力感を手なずけ飼い慣らすかで全然傾向の違った人格ができあがっていく。”といった「ことば」は、日々患者さんと向き合い悩み続けた筆者の長年の経験から析出してきたものだと思う。そんな新しい「ことば」に出会うことが出来るのを楽しみながら読むことも出来るだろう。