一過性意識消失 transient loss of consciousness

救急で頻回に遭遇する「一過性意識消失」をここでは扱う。意識障害の項で話したが、一過性意識消失の病態は「一過性」の「覚醒(arousal)障害」である。「一過性」ということがpointで、どのような病態だと「一過性」になりうるかをまず考える。

ここでも神経診断の基本である解剖学的局在と時間軸から「一過性意識消失」を考える。
解剖学的局在では、「覚醒障害」は基本的に大脳皮質全体もしくは、両側視床、脳幹の障害で起こる。脳の一部に脳梗塞が起こっただけでは覚醒障害は起こらない。
時間経過・発症様式は「突然発症」である。突然発症の病態を呈するものとしては、大きく分けて2つあり「血管障害」と「機能性障害」の2つである。
まとめると、「一過性意識消失」では大脳皮質全体もしくは両側視床、脳幹の「血管障害」、「機能性障害」を考える。


1:失神 syncope

まずは「血管障害・循環障害」から話しをする。脳全体への虚血が起こるためには、脳の一部の血管では説明することが出来ない。体全体への循環が一時的に低下する必要がある。つまり、これは「脳」の問題ではなく、「心血管系」の問題である。具体的には、消化管出血での循環血症量減少や、不整脈での一過的な血圧低下が挙げられる。「失神 syncope」とは、この「心血管系による一過的な脳低灌流」の状態を表す。

「一過性意識消失」の原因として「TIA(一過性脳虚血発作)」は基本的に鑑別に挙げない。TIAでは脳全体が虚血になることは血管支配からはありえない(大脳皮質全体を単一の血管が支配することはない)。脳の一部が虚血になることで虚血部位に対応した神経症状が一過的に起こる疾患である。脳幹部分での虚血であれば失神が起こりうるが頻度からはまれである。

具体的な「失神」の鑑別を以下に記載する。特に緊急性があり重要なのは、「心血管系」と「循環血症量減少」による失神だ。


「心血管系」は病歴だけでなく、心電図の確認と心エコー検査に習熟する必要がある。若年でもBrugada症候群やHOCMといった疾患はあるため、心原性の可能性は常に考慮が必要だ。高齢者は特に「薬剤」が原因となる場合があるため必ず最近の薬剤変更歴は確認が必要だ。背景に房室ブロックがある場合や洞不全症候群がある場合に、β-blocker(内服のみならず、緑内障での点眼薬も含む)、非ジヒドロピリジン系カルシウム受容体拮抗薬(ワソラン®)など洞結節、房室結節に作用する薬剤が入ると徐脈性不整脈によって失神をきたす可能性がある。

次に「循環血症量減少」だが、特に重要なのは出血だ。消化管出血の患者は、必ずしも「血が出ました!」と救急外来を受診してくれるわけではない。体内でひっそりと出血しており体表からは分からない状況だと、その最初の症状は「失神」であることは多い。若年女性では子宮外妊娠、大動脈瘤術後患者はAortoenteric fistula(大動脈と腸管に瘻孔ができ、大量に消化管へ出血が起こる病態)、肝細胞癌が既往にある患者の肝細胞癌破裂、高齢者の実は大腿骨転子部骨折からの出血など注意するべきポイントは多々ある。
こうした、循環血症量減少での失神患者は、ショックになる手前であり自分がここで出血病態を見つけることが出来れば助けることが出来るという気概を持って診療に臨もう。

2:「てんかん発作」

「機能性障害」の代表は「てんかん発作」である。「てんかん」は言葉がややこしい領域であり、詳細は別項を参照していただき、ここではその病態にのみ焦点を当てる。てんかん発作の病態は「大脳皮質細胞の過剰興奮」である。これが全般性、つまり大脳皮質全体に広がっている状態では覚醒障害を生じる。脳の一部分だけの場合はそこにその解剖部位に対応した神経症状が起こる。

3:「失神」と「てんかん発作」をどう区別するか?

以下は「失神」と「てんかん発作」をどう区別するかに関して述べる。
「意識の改善経過」という点からみると、「失神」はすぐにぱっと意識が戻るが、「てんかん発作」ではだらだらと時間をかけて意識が戻る経過をたどる。

これらの臨床所見のみから区別する方法として下記が有名である。検査だけでは両者の鑑別は難しく、病歴と身体所見が最も重要である。
舌咬傷は有名であり、注意点としては「舌をしっかりと出して側面まで観察する」ことである。てんかん発作の舌咬傷は舌側面、心因性では舌の前のことが一般的であり、ちらっと舌を見ただけでは容易に見逃してしまう可能性がある。注意して観察したい。

4:一過性意識消失の診療手順

ここでは救急の現場において、特に緊急性の高い「心血管系」と、「循環血症量減少:出血」での失神を見逃さない観点から実際の診療する手順を考える(下図参照)。下図の左上に行う検査を、右上に同時並行で行う病歴・所見をまとめた。
先に述べたように「循環血症量減少での失神」は「ショックの前段階」の可能性があるため、ABCの確認が重要であることを改めて強調しておく。
次に心電図、心エコー、採血を行いながら、病歴を確認する。ここで本人は基本的に意識消失のことを覚えていないため、目撃者からの情報が何よりも重要になる。目撃者が救急隊と一緒に来てくれない場合もある、その際には連絡先が分かれば電話をしてでも確認する。そのくらい目撃者からの情報は重要である。「何をしているときに倒れたのか?」、「四肢を屈曲・伸展するような動きはあったか?」、「意識を失っている時間はどのくらいだったか?」など目撃者でないと分からない情報が多数あるため確認したい。
また高齢者では薬剤歴が重要だ(詳細は上記)。身体所見の点からは舌咬傷、尿失禁は「失神」と「てんかん発作」の鑑別に役立つ。

これらのステップを経たうえで、緊急での介入が必要な「循環血症量減少」や「心原性」の可能性があるかどうかを判断する。
もしも、消化管出血が示唆される場合は内視鏡検査に、骨折による出血や腹腔内出血の可能性がある場合はvital singが安定している前提で造影CTへ、完全房室ブロックがある場合は循環器へ相談するといったプロセスを経る。
明らかな病態がつかまらない場合もある。むしろそちらの方が実臨床では圧倒的に多い。その場合でも明らかな神経調節性失神以外は基本的に外来でのフォローアップをするべきである。Holter心電図、脳波検査なども検討していくことになる。
同じ意識を失う場合でも「一過性の覚醒障害」と「持続性の覚醒障害」では、初期対応の方法や考えるべき鑑別が全く違うことに気が付くだろう。検査で頭部CTひとつとっても、一過性意識消失では基本的に頭部外傷がない場合、SAHが積極的に疑われない場合は必要ない。
一過性意識消失は日常臨床で非常にcommonな症候であり、参考になれば幸いである。

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