注目キーワード

組織への酸素供給

ショック、人工呼吸管理、輸血などの勉強で重要なテーマ「組織への酸素供給」に関して解説する。

1:組織への酸素供給

DO2(delivery O2):組織への酸素供給は3つの要素により規定される。

Hb(血中ヘモグロビン濃度)、SaO2(動脈血のHb飽和度)、CO(cardiac output:心拍出量)の3つである。そして下図の式で計算される。


これはどういう意味か下図の模式図で考える。川があり、向こう岸へ荷物を届けたい状態で考えてみよう。「届けたい荷物」=酸素である。この荷物は船にただ川の水にぷかぷか浮いているだけでは向こう岸に効率的に届けられない。効率よく届けるためには船に乗せて運ぶ必要がある。この「船」=Hb(ヘモグロビン)である。しかし、いくら荷物と船があっても川が干上がっていれば船は動かせないし、川に流れがないと船は動かない。この「川の流れ」=CO(心拍出量)である。「届けたい荷物」を黄色い丸、船を赤い台形、川の流れを水色で表現している。

たとえば出血してしまっている状態を考えてみる。出血している状態では酸素の量は変わらない、しかし、船の下図は少なくなり、また川の流量も少なくなっている(下図)。

2:SaO2 と PaO2はどう違うのか?

ここで再度先の式を考える。PaO2の前には0.0031という係数がかけられている。これは何を意味しているのか?これを理解するためには、SaO2とPaO2の違いを理解する必要がある。SaO2はSaturationつまり、ヘモグロビンのうちどのくらい酸素が占めているかを表す。先の図を利用すると、荷物が載っている船の割合は全体の船のうち何%あるかを表現している。PaO2は酸素分圧であり、純粋に荷物の数を表現しており、ヘモグロビンの値とは関係ない。

PaO2=80mmHg, SaO2=100%の場合と、PaO2=400mmHg, SaO2=100%の場合を比較して考える。

1: PaO2=80mmHg, SaO2=100%の場合

2: PaO2=400mmHg, SaO2=100%

既に全ての船(ヘモグロビン)は荷物(酸素)で満席の状態である。この状態でさらに荷物(酸素)が増えても船には乗ることが出来ないため、川にぷかぷかと浮いている状態になる。先にも述べたように川にぷかぷかと浮いているだけの状態の荷物(酸素)は効率よく向こう岸に届けることが出来ない。

このことからわかるのは、組織への酸素供給においてぷかぷか浮いている荷物(酸素)がいくら増えても意味は乏しく、きちんと船(ヘモグロビン)に乗った荷物(酸素)が重要であることだ。だから、組織への酸素供給ではSaO2が重要であり、PaO2の前には0.0031という係数がかけられていることから分かるようにPaO2は重要ではないのである。

組織への酸素供給という点からSaO2とPaO2の違いが理解できたと思う。ではPaO2がSaO2よりも優れる点は何であろうか?それは「酸素化」の指標となる点である。

上記2つの場合を図でも示したが、SaO2はどちらも100%であるが、実際に荷物の量はPaO2=400mmHgの場合とPaO2=100mmHgでは異なる。僕たちが酸素療法で酸素をどのくらい届けているかを判断するのは、SaO2ではわかりにくい。PaO2を酸素化の指標とする。例えば人工呼吸管理での酸素化の指標はP/F ratioであるが、これはSaO2ではなく、PaO2を指標とする。その理由は今まで述べた通り、PaO2が酸素化の指標として優れているからだ。

まとめになるが、SaO2:組織への酸素供給の指標、PaO2:酸素化の指標(酸素療法や人工呼吸管理での)と理解しよう。

ちなみに、僕たちが日常的に測定しているSpO2の”p”は”percutaneous”のpであり、動脈ではなく、皮膚を経由したことを表現している。SaO2の代用として使用することが出来簡便で非常に有用であるが、限界もあるため正確に評価する場合には動脈血液ガスでSaO2を測定する。普段何気なく見ているSpO2であるが、これは酸素化の指標ではなく、組織への酸素供給の指標であることに改めて注意したい。